2017年4月9日日曜日

あ行の愛

頑張らない人を大切にすること。
頑張れない人を慈しめること。

ただただ愛して抱きしめること。
愛する喜びに心で札をつけぬことほど。

輝くこと、だけが立派なことだ、など。
頑張らなくても良い。

愛は果てしなく広く拓かれて、
愛はあらゆる全てを抱きしめて。



頑張っていない人を励まさず、勇気付けず、
遍くこれ程大きな愛はないのではなかろうか。

新しいこと、頑張ること、目標を持つこと、
頑張れなくて良い。

2017年2月10日金曜日

別離

ぼくにあって、きみにないもの
きみにあって、ぼくにないもの

きみにたずねて、わからないこと
ぼくにきかれても、ぼくがこまること

きみにぽっかりあながあいて、
ぼくにはそれがわからないけれど、

きみがわからないことが、
ぼくにはわかることがあって

そうやって、
わからないことが、
ぼくときみをつなぐ

わからないことを、いつもはなして、
けれども、いちども、
なっとくとか、りかいとか、
わかりあったとか、

そういうことがおとずれたふりをするばかりで、
そういうことがあったことにしておくことで、

なんとなく、
つながっているような、いないような、
なにもないようで、あるような、

そんなことのくりかえしで、
だからきみのぬくもりや、かなしさを、
のがすわけにはいかないような、
ぼくはなぜきみとともにいるのか、いないのか、
それもわからなくて、

そして、すぐにきみとつながろうとするけれど、
それもわからず、

でも、ひとりではいられないから、
ぼくもきみも、
ひとりではいられないから。

2016年7月20日水曜日

ビルの間の昼下がり


昼下がり 花ざかり
ビルの間に 蓮ばかり

桃色にグリーンに赤ばかり
あたり一面に 色ばかり

空はちゃんぽんの硝子色
クレヨンがなくてお日様は白

池は鴨、亀、鯉ばかり
ビルの間の昼下がり

池をぐるり お堂は人だかり
氷を頬張り 口の周り
青や赤や緑の 色ばかり

昼下がり 花ざかり
ビルの間に 夏ばかり

昼間の夏に 花ざかり
池に一面 蓮ばかり



2016年5月2日月曜日

すべてを失った人へ

すべてを失った人へ
すべてを失ってしまった人へ

失ったものは返ってこないのに
失ってしまったものは帰ってきた

お父さんはお母さんへ
お母さんはお父さんへ

お姉ちゃんは妹へ
妹はお兄ちゃんへ

弟はやり場がないけれど
姉と妹と兄に挟まれて
居心地が悪そうで、悪くないような

失くしてしまった思い出や傷痕
消えてしまった苦しみや、
打ち消された、括られた「今」

今は「今」から、いま、となり、
居間が新たに彩られ、
そして微笑みが帰ってきて、
もう一度すべてが造られる

すべてを失ってしまった人へ
すべてを失った人へ

どこに行ってしまうのだろうと思っていた想いは、
ここからもう一度、という気持ちに代えて、

描いた絵や、紡いだ詩は、心の中から蘇り、沸き起こり、
そうしてまた、命が紡がれ、
そうしてまた、光と闇が生まれ、
また一つ、深呼吸をして、
共に失い、共に生み出し、
生まれ合い

すべてを失った人へ
すべてを失ってしまった人へ


2016年2月11日木曜日

教える、ということ

教えるは、推し得る
押し割るではなくて
教えるは、時に、芽を摘む
小さなことを言祝ぐ気持ちを
小さなつぶやきを拾うココロを

教え込む、ではなく、見つけ出す
つまづき、は、揺らめき
揺らめきは、ヒラメキ
ヒラメキは、トキメキ

拾うこと 芽を摘むことではなく
気づくこと 共に喜ぶこと
手をたずさえて伝えること
頭の中のことを置いて
押したり引いたり動かし合うこと

伝えるではなく、つぶやくこと
つぶやくのは、ささやき?
ささやきは、揺らめき
揺らめきは、ヒラメキ
ヒラメキは、トキメキ

いつしかときめきを忘れる時がある
ときめきを取り戻したら
きっとそれを
誰かに伝えたくなるでしょう?
誰かに伝えたくて、いてもたっても
いられなくなるでしょう?

そうして教わったり教えたりして
その輪を継ぐのでしょう


2015年12月1日火曜日

空想家族

一人で生きられない
私もあなたも
だから家族になりましょう
家族を作りましょう

ある日、誰かと出会います
誰かとあなたは家族になります
時間がかかるので、しばらく
ゆっくりと時間をかけましょう

家族になったら一人で生きられない
あなたも私も
だから家族を大切にしましょう
都合の悪いことを引き受けましょう

ある日、誰かが病気になります
あなたはその人を看病します
あなたもいつか誰かになるから
静かに愛情を注ぎましょう

めんどくさいことばかりでやってられない
私もあなたも
少し息が詰まったら
言葉がいらない時を過ごすのでしょう

ある日、欲しいものができたりします
家族はあなたを止めたりします
あなたはがっかりするでしょうが
家族はあなたを大切にしているのでしょう

誰も「家族」には逆らえない
あなたも私も
だからなるべく「家族」になりましょう
お互い「家族」でい続けましょう

ある日、戻る場所がわからなくなる時がきます
あなたから家族を求めることがあったりします
さびついた気持ちには勇気もいるでしょう
きっと家族はあなたと同じ気持ちでいるでしょう

家族の始まりも終わりもわからない
私にもあなたにも
けれどあなたと私が終わるときに
家族はそこにあるのでしょう

いつの日も家族は語らないでしょう
家族もあなたも私も家族なのだから
始まりも終わりもないけれど
家族はこうして続いていくのでしょう




僕はおじさん

妹に子どもが生まれた
母が見に行こうと言うので
僕は車を出した
孫を抱く母はほころび
妹夫婦は照れ笑い
親になった静かな誇り
ばらばらに生きている人を
たしかにつなぐ小さないのち

帰りしな、母と話した
母がうれしそうに話すので
僕までうれしくなった
ばあちゃんになった母はうれしはずかし
おじさんになった僕は苦笑い
歳をとって一人なままの暮らし
一人で生きている僕を
にぎって離さない家族の温もり