ここにあるすべてのもの
押し黙ったままの錆びた灰皿
テーブルのガラスに
息子が幼いころに塗った
無邪気な藍色のらくがきのクレヨン
僕の手に結ばれた
異国の貧しい少女が編んでくれた
呉れない色の心細いミサンガ
たくさんの笑顔や怒りややるせなさなど
瞬時につなげる
黒く艶めく携帯電話
何千回も頭を撫でられ
はげ上がってしまいそうな
フランス製の緑いろのライター
べっとりと
白いお皿にしがみついて
こびり付いた醤油まみれのミョウガ
ここにあるすべてのもの
目に映るパソコン画面の向こうの人の顔
あそこで話していた昔あった人の声
あの人がムスッとしていた時の空気
鼻水や汚れた手をそっと包んだ
ハンカチは汚れて僕の生きた証を帯びて
ズボンのポッケからはみ出して
仕事帰りのすぐそばから
脱いで投げ捨てられる
しみの付いたシャツの洗濯カゴの中の孤独
望むと望まざると
想いが込められるはずだったのに
想いを忘れて来た市民税の封書
あの子と出会って階段で
キスをした時に買った
美しく赤く光った色のイヤフォン
打ち捨てられて床に転げた
僕が着ける訳でもない
使い捨てのコンタクトレンズ
ここにあるすべてのもの
押し黙って 何も言わず
共に居て 邪魔にもならず
弱音も吐かず いばりもせず
なぐさめもせず こびも売らず
ここにあるすべてのもの
愛する気持ち抱きしめて
愛する人も抱きしめて
愛するすべてを愛して止まず
愛する気持ち留めず止まず
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