2015年12月1日火曜日

空想家族

一人で生きられない
私もあなたも
だから家族になりましょう
家族を作りましょう

ある日、誰かと出会います
誰かとあなたは家族になります
時間がかかるので、しばらく
ゆっくりと時間をかけましょう

家族になったら一人で生きられない
あなたも私も
だから家族を大切にしましょう
都合の悪いことを引き受けましょう

ある日、誰かが病気になります
あなたはその人を看病します
あなたもいつか誰かになるから
静かに愛情を注ぎましょう

めんどくさいことばかりでやってられない
私もあなたも
少し息が詰まったら
言葉がいらない時を過ごすのでしょう

ある日、欲しいものができたりします
家族はあなたを止めたりします
あなたはがっかりするでしょうが
家族はあなたを大切にしているのでしょう

誰も「家族」には逆らえない
あなたも私も
だからなるべく「家族」になりましょう
お互い「家族」でい続けましょう

ある日、戻る場所がわからなくなる時がきます
あなたから家族を求めることがあったりします
さびついた気持ちには勇気もいるでしょう
きっと家族はあなたと同じ気持ちでいるでしょう

家族の始まりも終わりもわからない
私にもあなたにも
けれどあなたと私が終わるときに
家族はそこにあるのでしょう

いつの日も家族は語らないでしょう
家族もあなたも私も家族なのだから
始まりも終わりもないけれど
家族はこうして続いていくのでしょう




僕はおじさん

妹に子どもが生まれた
母が見に行こうと言うので
僕は車を出した
孫を抱く母はほころび
妹夫婦は照れ笑い
親になった静かな誇り
ばらばらに生きている人を
たしかにつなぐ小さないのち

帰りしな、母と話した
母がうれしそうに話すので
僕までうれしくなった
ばあちゃんになった母はうれしはずかし
おじさんになった僕は苦笑い
歳をとって一人なままの暮らし
一人で生きている僕を
にぎって離さない家族の温もり

「父」という夢想

小さな手 桃色の肌
薄い肌に細い血管が 
浮き出て薄く
この子のいのちのたしかさを
小さな心臓から
体のすみずみに運ぶ

この子と山の小川に行って
沢蟹をとったり
蝉の声の残響を
岩肌に耳を当てて
感じたりだとか

そんな楽しいときを
一緒に過ごせるほど
この子が成長するまで
私はこの子と共に
生きていくことが
許されるだろうか

そもそもこの子は
本当に生まれてきて
私に元気な声を
聞かせたりするのだろうか

「母」となるべきものを持たない
そんな私の心持ちは
どんな代わりがあれば
愛情と呼ばれるのだろうか



2015年11月30日月曜日

会いだしもせぬ娘に

夜遅くにストーブがぼぉーっと鈍い音を立てている
私は静かに目を閉じる

娘に「今日のコロッケ、パサパサしてなかったか。」と聞くと
娘は「母さんとくらべないでよ。」と笑う

娘が出かけるときに、「送ろうか。」と言うと
娘は「そこまでだから歩く、いい。」と断る

娘の恋人ができたらしいことを妻から聞き
「会ったのか。」とすましてたずねてみる

妻が「きになるの?」と笑うと
黙って「んんん。」とうそぶく

娘が欲しかった、と思えば、
私がいるじゃないの、と妻が言い

お前はいるけど、お前じゃなくて、と言い返せば
私がいなければ何もできない子供のくせに、と言い返され

ふと、そんなことを、ストーブの赤いチラチラを見ながら
夜遅くに一人で考えたりする

私には娘も妻もいない
会い出しもせぬ娘に会ったとき
私は何を言うのだろう
そんなことをふと考えながら、
また赤いチラチラを見ながらぼんやりとする

ストーブが鈍い、ぼぉーっと言う音を立てている
私をけして、一人にしないように
私をけして、邪魔しないように

2015年11月23日月曜日

おもかげ

雨が振って来た
雨が降って来て
傘を持たず
急に着ていたシャツを頭に掲げて
急ぎもせず
凛と歩く
あの子は今頃何をしているんだろうか、とか
そういえばここをよく通ったっけ、とか
黙々と
目に映るものを
うそともほんとうとも受け止めず
流れて行くものを、ただそのままに
雨とともに身体にしみ込ませ
忍び込んだ怪しげな想いは
いつしか宙へと
浮かんで消えるような
ここにとどまるような
よくわからないもやもやが
頭に掲げた濡れたシャツから
湯気になって出て
ここはもう秋の中心軸から少しずれて
悲しくはないんだけれど
悲しくなくはないような
恋しくはないんだけれど
恋しくなくはないような
よくわからないけれど
雨に濡れて
傘も持たず
そんなことだけを思って

あ、あの子が通った

と、思ったりして

2015年11月7日土曜日

温もり

あなたのその美しい手
あなたの手のつやと輝き
あの澄んだ瞳に映った
憩いの原の銀のすすき
あそこでまぶしく揺れる銀のすすきに
包まれたあなたは
誰にたとうべきか、
いったい誰と紛うことか

あなたの真直ぐな心
あなたの心の温もりとささやき
あの、静かな怒りにふるえたような
コスモスの燃える原のあなた
あそこにて僕と語り合ったあなたの
美しい手の温もりを
僕はいかにして忘れようか
僕はなんとして忘れ得ようか

あなたのその美しい手の
僕にくれた、僕を包んだ
あの温かいぬくもり

[elegy: 大垣貴美ちゃんに捧ぐ]

もののあはれとあわれなモノと

もののあはれとあわれなモノと
 どっちを見てもあはれはあわれ

東に死に逝く人がいて、
 人はいずれは死に行くと、
西にて生にしがみつき
 私は生きて考える

あわれなモノはそこにあり、
もののあはれは、見え隠れ
世にあるあはれは浮いて消え
あわれなものも死に消える

消えるあはれを追い求め
人はあわれを好き愛でる
あはれなモノは消え行くと
惜しみ哀しみ、胸を病む

あわれなモノはそのあはれ
さらして孤であり、頑とする

あわれなモノは哀しまず
悲しみ誘ってそこにある

もののあはれを痛むとき
刺さるトゲにはトガはなく
トガなく刻むあわれみは
涙に代えて、モノ悼む

悼む哀しみ、つゆ消えず
消えぬあはれは、見え隠れ
浮いては消える悲しみは
あはれなモノに見えました

もののあはれとあわれなモノと
どちらを見てもあはれはあわれ

死にゆく人のあわれ見て
残る哀しみあわれな私

[elegy: 大垣貴美ちゃんに捧ぐ]

2015年11月3日火曜日

うそつきとビビり


あなたにこれをあげます
あ、やっぱこっちにします
いいえ、これのほうがいいです
いやいや、こっちですね
うーん、これってどうなんですかね
うんうん、いいですよね、これって
えっと、これはですね
ええ、これはかなりいいです
おお、これがいいですか
おれはこれがいいとはおもいません。

2015年10月12日月曜日

女のままで

母がキッチンで牛蒡を洗っていて
そこに妹がやってきた

妹は母の手を見て
死んだお姉ちゃんの手みたいにきれい
と、母に言った
母は妹を見もせずに
あの子も私も女だから
あんたも女になるのよ、と言った

姉は雨の日に川で流されて
きれいな白い顔で家に戻って来た

妹は姉の顔を見て
お母さんとおばあちゃんが目をつぶってるみたい
と、母に言った
母は祖母を見もせずに
私もおばあちゃんも女だから
あんたも女になるのよ、と言った

姉が死んだあと、母と父は仲が悪くなって
妹が二人をなんとなくつなげていた

妹は母の顔を見て
お姉ちゃんどうしてるかな
と、母に言った
母は今度は妹を見て
あんたも私もお姉ちゃんも女だから
あんたも女になるのよ、と言った

父が出掛けたのを見計らって
母はふいに妹を抱きしめた

妹は母の胸元で
お姉ちゃんどうしてるかな
と、母に言った
母は妹をきつく抱き寄せて
あんたはお姉ちゃんの分まで
女のままでいてやってね、と

静かに妹をきつく抱いて咽いだ

2015年9月25日金曜日

友達トビラ

都合の良い人 悪い人
人はそれぞれに選んでる
なのに、いつも、言うことが違う
いったいどっちが 本当なんだろう

僕に甘い人 厳しい人
その時々で友達が変わる
なのに、すべて、友達、でくくる
いったい誰が、友達なんだろう

友達は良いな、って人から聞く
友達はヤだな、って聞く事はない
なのに、いつも言うことが違う
風向きが人の友達を入れ替える

友達を勘定しなおすと
世の中みんなが友達になる
そうなるはずなのに、なぜか、でも
友達はいつも入れ替わる

仲良くなって ケンカして
ケンカしつつは 消えて行き
消えて行っては あらわれて
ころころ 人が 入れ替わる

僕と友達の目の前で
入れ替わる人が出入りする
出入りした人は入れ替わり
他人と友達がすげ代わる

友達を決めるのは友達でなく
自分と他人とあなたと僕
入れ替わる友達を決めるのは自分
自分と友達も出入りするだけ
友達トビラを出入りするだけ

開け閉めするのは他人と自分
自分と他人がトビラを閉める
開いたトビラから入るのも友達
友達はトビラを出入りする

トビラが開いたままの人になれば
みんなが自由に出入りできる

みんなが自由に出入りすれば
友達トビラを外せばいい
みんなでトビラを外せば良い


2015年9月23日水曜日

小さい秋の入り口

僕は答えを探して歩いていた
遠くに答えがあると思って
でも、答えは見つからなかった

ふと近くのものにふれてみた
それでも答えは見つからなかった
何が答えなのかを 僕は間違ってたみたい

近くには その「答え」があった
それで僕は自転車に乗った
風は僕を自転車で運んだ
風で自転車は運ばれて
僕はいつしか違う所に来ていた

答えは見つからないけれど、
僕はもう、答えを探さなくなった

かわりに秋の入り口見つけた
あたたかい人たちと
小さい秋の入り口見つけた

俺とかびと かびと俺と

へりにしがみつくあいつが
なんだかみょうに にくたらしくなり
俺はあいつをこらしめてやろうと
あいつに一撃を加えてやった

あいつはいつも勝手だが
今度ばかりはおとなしくなり
俺は手際よくいこうと
あいつを一気に滅してやった

悪気もないところを見せるあいつが
わけもなくなんだか 厚かましく感じ
俺はあいつを一掃しようと
あいつを真っ白にしてやった

あいつはきっと また来る
ここへ再び また来る
敵もさるもの 俺だって
あいつにだけは 負けはしねえさ
自分にだって 負けはしねえさ

2015年9月18日金曜日

夕方、美術館で

夕方の美術館で 友達が死んでいる
僕の手が真っ赤だから なんだかあやしい

大好きなあのこが死んでいる
僕の胸がはりさけそうで何だかあやしい

大きな太陽の絵の前で僕は佇んでいる
僕には言えないことがあったからあやしい

太陽の赤にまぎれてごまかそうとしてる
僕は友達には言えずにとても空しい

本当のことをキャンバスにぶつけることができず
僕は心の赤や黄色を外に出して

倒れている友達を見て 心はとても細い
白い大理石の床が 真っ赤に濡れる

僕は逃げることもできずに心だけせわしい
どうしようもなくなって僕はそっと目を閉じる

床が割れて誰かがさらって呉れたらそれでうれしい
このまま何もかも なくなってしまえばそれでうれしい

ふと、あのこが僕の肩をたたく
ねえ、早く帰ろうよ、と肩をぽんぽんとたたく

僕は言えなかったことを 夕方の美術館に飾る
いつか僕は心で、画家になれるのだろうか、と

2015年9月17日木曜日

ここにあるすべてのもの

ここにあるすべてのもの

押し黙ったままの錆びた灰皿 
テーブルのガラスに
息子が幼いころに塗った
無邪気な藍色のらくがきのクレヨン

僕の手に結ばれた 
異国の貧しい少女が編んでくれた
呉れない色の心細いミサンガ

たくさんの笑顔や怒りややるせなさなど
瞬時につなげる
黒く艶めく携帯電話

何千回も頭を撫でられ
はげ上がってしまいそうな
フランス製の緑いろのライター

べっとりと
白いお皿にしがみついて
こびり付いた醤油まみれのミョウガ

ここにあるすべてのもの

目に映るパソコン画面の向こうの人の顔
あそこで話していた昔あった人の声
あの人がムスッとしていた時の空気

鼻水や汚れた手をそっと包んだ
ハンカチは汚れて僕の生きた証を帯びて
ズボンのポッケからはみ出して

仕事帰りのすぐそばから
脱いで投げ捨てられる
しみの付いたシャツの洗濯カゴの中の孤独

望むと望まざると
想いが込められるはずだったのに
想いを忘れて来た市民税の封書

あの子と出会って階段で
キスをした時に買った
美しく赤く光った色のイヤフォン

打ち捨てられて床に転げた
僕が着ける訳でもない
使い捨てのコンタクトレンズ

ここにあるすべてのもの

押し黙って 何も言わず
共に居て 邪魔にもならず
弱音も吐かず いばりもせず
なぐさめもせず こびも売らず

ここにあるすべてのもの

愛する気持ち抱きしめて
愛する人も抱きしめて
愛するすべてを愛して止まず
愛する気持ち留めず止まず